自然エネルギー発電に関する年表

自然エネルギー発電の歴史
1850 イギリスのジェームズ・ヤングが、石炭油およびパラフィン油の製造特許を得る
1853 アメリカのサミュエル・キーア、ヤングの石炭油製法にならい、石油精製法を考案、原油からの良質な照明燃料(灯油)の製造に成功、得られた灯油に“カーボン・オイル”と名づけて販売
1854 ニューヨークに世界初の石油会社が設立―G・ビッセルが灯火用としての石油の商業性に注目し、「ペンシルヴァニア・ロック・オイル会社」を設立した
1859 セネカ石油会社のエドウィン・L・ドレークが、米ペンシルバニア州のオイル・クリークにおいて、日産35バレルの機会掘りの油井掘削に成功、石油産業近代史の開幕となった
1873 ロシアのバクー油田で最初の噴油井が誕生
1878 スウェーデンのノーベル兄弟、特別製タンク船「ゾロアスター号」の建造を開始、これが世界初の組織的タンカー船隊の運行につながった
1894 ロータリー式掘削法、アメリカ・テキサス州コルシカーナ地域において、初めて成功する
1897 「シェル運輸貿易株式会社」(Shell Transport & trading co.)がイギリスに設立、サミュエル商会はシェル運輸貿易株式会社に発展的解消をとげた
1901 アメリカテキサス州バーモント近くのスピンドルトップで大噴油、ガルフ石油およびテキサス石油会社の起点となる
1910 ドイツで最初の天然ガス田が発見された
1913 アメリカのM・J・トランブルの発明によるパイプスチール式連続蒸留装置がカリフォルニア州に建設された、これが今の石油精製法の原型となる
1915 チェコスロバキアのグベリーで石油発見
1917 シェル系の「ベネズエラ石油利権会社」(Venezuelan Oil Concessions,Ltd.)が、マラカイボ湖畔で世界的に有名なラ・ロサ(La Rosa)油田を発見
1920 アメリカに、石油化学工業が誕生、高オクタン価ガソリン製造の廃ガスから、イソプロピル・アルコールを製造
1921 メキシコがアメリカに次ぐ世界第2位の産油国となる
1924 日本で初の風力発電として、強風で有名な滋賀県伊吹山山頂に風車を設置
千葉県でも多翼型風車により、500ワット程度の発電をした記録がある
1925 日本の海軍省、国防用石油燃料対策樹立のために「石油調査会」を設置
1927 I・G・ファルベン社のロイナ工場で最初の合成石油(ガソリン)の製造がおこなわれた
1928 鹿児島高等農林学校(現鹿児島大学農学部)寄宿舎の照明用に、風力発電用の風車を設置
フランス政府、「石油業法」を制定、今日のフランス石油業法の基礎をなし、委託専売主義を貫く
1931 三菱商事、アメリカのタイド・ウォーター社と合弁で「三菱石油株式会社」を設立
1934 日本にて、「石油業法」を交付、6か月分貯油制、製油・輸入業許可制、販売割当制などを規定
1938 山田基博氏が北海道稚内の漁村に出力200ワットの小型風車を設置
1940 三井化学工業が石油合成に成功、人造石油製造に着手
1944 小川久門による「風車工学」出版
1945 アメリカが「トランス・アラビアン・パイプライン」(略称タップライン)の建設計画を発表
1950 サウジアラビアのアブカイク油田、世界最大の油田(日産45万バレル)と発表
1951 サウジアラビアのサファニヤ(Safaniya)油田発見、海底油田としては当時世界最大(日産3万8,000バレル)
1954 アメリカが原子力の平和利用宣言を行う、これ以降、各国で原子力発電の機運が高まる
1955 中国の黒竜江省、松遼平原(今の大慶油田)で、石油探鉱始まる
1956 アルジェリアでハッシ・メサウド(Hassi-Messaoud)油田を発見
1957 日本輸出入石油株式会社、サウジ・アラビアとの間に石油利権協定を締結
1959 中国で大慶油田の開発が進行
アメリカが「石油輸入管理局規制」を制定、石油の強制的な輸入制限へ踏み切る
1960 OEECエネルギー委員会報告書「ロビンソン報告」発表、石炭から石油への転換を要請
1965 中国の鉄砧山地区で天然ガス発見(埋蔵量108億立方メートル)
1967 日本において、「石油開発公団法」を公布、発足
1968 原子力発電所の建設計画、世界の各地で本格化
1974 西ドイツ、石油への依存度を低め、石炭の現状維持を内容としたエネルギー新計画を閣議決定
OPEC第42回総会開催、湾岸3か国アブ・ダビ会議の決定を追認、原油の単一価格採用への第一歩をしるす
1980 国連経済特別総会開会、国連総会として史上初めて、石油・エネルギー問題を討議
1981 山田基博氏が「風力発電装置の発明考案に精励」したことにより黄綬褒章を受賞
1987 三菱重工業長崎造船所による250キロワット級風車が、海外へ輸出され好成績を収める
1992 米国、新国家エネルギー戦略(NES)を具体化した包括的エネルギー法が成立(再生可能エネルギーや新エネの開発・利用促進など)
2000 イギリスのBPアモコが開発中の新超低硫黄軽油(硫黄分含有率15ppm)が炭化水素、一酸化炭素の排出量を90%以上削減すると発表

出典:
さわやかエネルギー風車入門(三省堂)
世界石油年表(オイルリポート社)

GGC(Global Geothermal-power Club)

原発の代替エネルギーとして動き出す地熱開発

(2012年4月25日 電気新聞)

ベース電源となる再生可能エネルギー
規制緩和

原子力発電の代替エネルギーとして注目が集まる再生可能エネルギーの中で、ベース電源として期待される地熱発電に動きが出てきた。国の支援拡充に加え、環境省が国立・国定公園内の特別地域で、地熱発電開発を条件付きで認める規制緩和を打ち出したことがきっかけ。ただ、温泉事業者などから源泉への影響を懸念する声も根強い。開発事業者と地域関係者の間で合意形成をどのように図り、優良な事例をつくっていくかが今後の普及拡大を左右しそうだ。

国立・国定公園内
日本の地熱資源量は世界第3位

地熱発電の設備利用率は約70%と、太陽光(約12%)や風力(約20%)など他の再生可能エネと比べて格段に高い。また、日本の地熱資源量はインドネシア、米国に次いで世界第3位と豊富だが、その8割は国立・国定公園内にあるため、開発することが難しかった。

垂直掘削や発電所建設

これに対し、環境省は2012年3月、国立・国定公園内での地熱発電開発に関する新たな方針を公表。第2種・第3種特別地域で、垂直掘削や発電所建設を条件付きで容認する方向に大きく舵を切った。

石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)
地表調査や掘削調査へ補助

一方、地熱発電開発を推し進めてきた経済産業省は、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などを通じ、地表調査や掘削調査へ補助を行うなど、全面的に支援していく姿勢だ。

企業

経産省や環境省

これらの動きを受け、企業(発電事業者)も国立・国定公園内での地熱発電開発に本腰を入れており、〈1〉北海道・阿寒地域〈2〉北海道・白水沢地域〈3〉秋田県・子安地域〈4〉秋田県・木地山・下の岱地域〈5〉福島県・磐梯地域――の全国5カ所で事業が本格化している。このうち磐梯地域では2012年4月中旬、経産省や環境省などが主催する地域関係者向けの説明会が開かれた。

地元との合意形成は困難
温泉への影響を懸念

説明会では温泉への影響を懸念する意見が数多く出され、地元との合意形成の困難さがあらためて浮き彫りになった。

歴史
地熱発電事業者と温泉事業者

地熱発電関係者はその理由について「地熱発電事業者と自然保護団体や温泉事業者の間には、長年にわたる疑心暗鬼の歴史がある」と指摘。客観的なデータを出し合って互いに議論することがほとんどなかったため「感情論で応酬してしまう」(発電事業者)という。

地開協

拡大ビジネスモデルワーキンググループ福島地熱プロジェクトチーム
磐梯

総出力27万キロワット程度の大規模地熱発電を見込む磐梯地域の開発主体、日本地熱開発企業協議会拡大ビジネスモデルワーキンググループ福島地熱プロジェクトチームの代表企業を務める出光興産の後藤弘樹・資源部地熱課長は、2012年9月までに地表調査に着手したいとする一方「地道に粘り強く理解を求めていく。科学的な根拠に基づいて理解し合うことが大切」と話す。

出光興産
秋田県・子安地域

出光興産は秋田県・子安地域の開発も進めている。進捗は順調で、2011年10月には地質調査を完了。現在は秋田県や湯沢市と掘削要件を協議しており、後藤氏は「湯沢市が強力にサポートしてくれている。2012年夏には掘削調査に入りたい」と意気込みを見せる。

北海道・阿寒地域

一方、北海道・阿寒地域では、地元自治体が観光への影響に対する懸念を示しているもよう。経産省は「科学的な根拠を細かく説明し、足しげく通って理解を求めていきたい」と説明している。

国内の地熱発電による発電量
総発電量の1%未満

2009年度の国内の地熱発電による発電量は29億キロワット時と、総発電量(1兆1126億キロワット時)の1%にも満たない状況。世界では地熱開発ブームが訪れており、例えば米国の地熱発電容量は2005年に256万4000キロワットだったが、2015年には2倍以上の540万キロワットに達すると見込まれている。

再生エネとして脚光浴びる地熱発電

規制緩和、掘削コスト課題

(2011年8月17日 産経新聞)

日本の地熱資源量
純国産エネルギー開発

原子力発電所約20基分の電力を生み出すことができる日本の地熱資源量。だが、その8割は開発規制のかかる国立公園の地下に眠ったままだ。地熱資源の有効活用を目指し、政府は昨年、景観保護を条件に規制緩和に踏み切った。東京電力の福島第1原子力発電所事故をきっかけに、原発に過度に依存したエネルギー政策の見直しは避けられず、純国産エネルギーの開発が加速する。

2000メートルで5億円
秋田県鹿角市の澄川地熱発電所

青森、秋田、岩手3県にまたがる十和田八幡平国立公園の境界線からわずか300メートル。活火山の焼山の火口から上る蒸気を見ることができる秋田県鹿角市の澄川地熱発電所で、新たな井戸の掘削が行われている。

十和田八幡平国立公園
「地下から攻める」作戦

狙うは、国立公園の深さ2500メートルにある豊富な地熱資源。景観に配慮し、「地下から攻める」作戦で発電所敷地内から国立公園の地下へと斜めに掘り進む。澄川地熱発電所の出力は5万キロワットだが、井戸の目詰まりが影響して蒸気量が減少し、現在は3万キロワット台に低下している。新たな掘削で年内に5000キロワット分の蒸気を獲得し、さらに井戸の本数を増やす計画だ。

コスト

斜め掘りの「解禁」

2000年まで、国立公園は地下調査すらできず、指をくわえて見ていた状態だった。斜め掘りの「解禁」で、地熱開発は大きな転機を迎えたが依然、乗り越えるべき課題が存在する。コストの壁だ。

井戸

斜めに掘れば井戸は長くなり、開発コストが跳ね上がる。それでも、千田正弘所長は、国立公園の資源を得られるのならば、「コスト負担を補って余りある」とそろばんをはじく。

地熱発電の発電コスト
発電所の建設から運転開始まで10年以上

しかし、一般に地熱発電の1キロワット時当たりの発電コストは約20円で、石炭火力の2倍以上。発電所の建設に数百億円、資源量調査から試掘、掘削、プラント建設、運転開始まで10年以上かかるのも足かせだ。井戸を1メートル掘るごとに約20万円、2000メートル級の井戸を掘る資金は「4億~5億円」(業界関係者)に上る。

リスクも高いビジネス

資源量調査や試掘の技術が向上しているとはいえ、「大量の蒸気が出る井戸からわずか50メートル離れた地点で、全く蒸気が出ないケースがある」(業界関係者)など、リスクも高いビジネスだ。

「地球がボイラー」
九州電力・八丁原発電所

こうした中で、発電コストを7円程度に抑えているのが国内最大の九州電力・八丁原(はっちょうばる)発電所(大分県九重町、1、2号機で11万キロワット)だ。昭和52年の運転開始から20年近くかけて初期投資を回収し、現在も電力を安定供給している。

自然エネルギー自給率で全国トップ
九重連山の標高1100メートル付近

大分市内から車で約2時間。九重連山の標高1100メートル付近に入ると、発電所が真っ白な蒸気の柱を何本も噴き出している。敷地内には約100本の井戸があり、200~300度の熱水を取り出している。大分県内の水力発電の2倍の3万~4万世帯分の供給力があり、大分県を自然エネルギー自給率で全国トップの座に押し上げている。

日本地熱学会
優位性

地下の蒸気をエネルギーにする地熱発電は、「地球がボイラーの役割」(秋好真人所長)を果たし、燃料が不要。原発事故に加え、火力発電で使う石炭や原油の高騰を背景に地熱発電の優位性は高まる。日本地熱学会会長を務めた九州大大学院の江原幸雄教授は「安定的な電力供給ができる自然エネルギーは、地熱のほかにない」と強調する。

日本地熱開発企業協議会の試算

1キロワット時当たり9.2~18.3円で発電可能
再生エネルギー特別措置法案

日本地熱開発企業協議会は、東北や九州などの蒸気量が多い地域(31地点中28地点)では、1キロワット時当たり9.2~18.3円で発電可能と試算する。地熱発電は、再生エネルギー特別措置法案の対象になっており、買い取り価格が1キロワット時当たり20円程度になれば、普及に弾みがつくとの見方は強い。

環境~2050年目標に「ビジョン」提示(GGC)

自然エネルギー政策プラットフォーム

(2008年7月11日 日刊建設通信新聞)

2050年自然エネルギービジョン
政策提言

自然エネルギー関連団体が参画して発足した自然エネルギー政策プラットフォームは、『2050年自然エネルギービジョン』をまとめるとともに、その実現へ向けた政策提言を発表した。

環境8団体で構成
低炭素社会の実現に向けて

自然エネルギー政策プラットフォームは、全国小水力利用促進協議会、日本風力発電協会、風力発電事業者懇話会、日本地熱開発企業協議会、日本地熱学会、日本建築学会地球温暖化対策推進小委員会、ソーラーシステム振興協会、環境エネルギー政策研究所の8団体で構成しており、低炭素社会の実現に向けて自然エネルギー政策に関する検討や提言を行っていくことを目的としている。

中間報告

その第1弾として、2050年を目標とする自然エネルギービジョン(中間報告)をまとめた。

太陽光、バイオマス、水力、風力

それによると、2050年の国内電力量は年間8366億kwh。このうち、太陽光、バイオマス、水力、風力、地熱などの自然エネルギーを用いた電力量は5578億kwhで、全体の67%を賄うとしている。エネルギー源別でみると、太陽光が1500億kwh、バイオマスが1182億kwh、水力が1194億kwf、風力が876億kwh、地熱が826億kwh。

国内熱需要の約30%を賄う

また、国内熱需要の約30%を自然エネルギーで賄うとしている。家庭部門では太陽熱や地中熱の利用、業務部門ではバイオマスや地熱が積極的に利用されると想定している。

2050年のCO2排出量

これらにより、2050年のCO2排出量は2000年に比べて76.1%削減され、また、1次エネルギー供給のうち自然エネルギーが約60%(2000年では5.4%)を占め、エネルギー自給率は51%(2000年では5.4%)になると想定している。

実効的な地球温暖化対策
気候変動・エネルギー安全保障

長期的な視点に立った実効的な地球温暖化対策および気候変動・エネルギー安全保障を確立し、真に持続可能な低炭素社会となるための自然エネルギービジョンを実現するための政策として、▽長期的な高い数値目標と、対応する政治的なコミットメント▽化石燃料への補助金を段階的に廃止し、気候変動などの外部コストを内部化▽エネルギー市場における既存の規制や慣習からくる障害を調整して低減▽透明で安定した自然エネルギー市場の構築--などを提言している。

問題点

透明で安定した自然エネルギー市場
財務面でのリスク

透明で安定した自然エネルギー市場を構築するためには、▽自然エネルギーに対する長期的に安定した経済支援策を導入する▽CO2排出削減分の価値を証書化し、CO2市場の創設と調和させる▽投資家の視点から見て、長期的に安定した市場構造を創る▽需要家が直接選択できる自然エネルギー市場を創る▽官公庁の率先導入などによって初期需要を創出する▽地域開発、建築物・住宅新築・改修時などにおける自然エネルギー利用の原則義務化▽開発リスクの高い自然エネギーに対して、官民でリスクを共有する開発ファンドを設ける--などの措置により、自然エネルギー事業の財務面でのリスクや問題点を長期間にわたって低減する必要があるとしている。

送電系統の優先接続

また、自然エネルギー電力分野での政策として、▽自然エネルギー事業者による送電系統の優先接続▽自然エネルギーの系統費用(系統強化費用)の社会的負担化▽自然エネルギーのインバラス費用の社会負担化▽会社間連系線の活用と必要に応じた系統強化策の実施(自然エネルギー事業によって生じる変動を系統全体でカバーする柔軟な運用)▽需要側負担も含む系統全体の調整力の増大--などの政策を提言している。(GGC)

日本地熱開発企業協議会(地開協)と日本風力発電協会(JWPA)

地熱・風力発電関連団体、環境省・有識者委で開発など規制緩和を要望

(2010年6月4日)

環境省の有識者委員会
温暖化対策の中長期ロードマップ

日本地熱開発企業協議会(地開協)と日本風力発電協会(JWPA)は2010年6月3日、温暖化対策の中長期ロードマップ(行程表)に関する環境省の有識者委員会で発電施設の開発・設置の規制緩和を要望した。行程表案は温室効果ガスの25%排出削減に向けて、2020年までに地熱発電を2005年比約3倍の最大171万キロワット、風力発電を2005年比約10倍の最大1131万キロワット導入する目標を設定。2団体は野心的な目標を歓迎する一方、実現に向けて課題も多いとした。

国立公園の開発規制の緩和
風車タワー設置費用の高騰

地開協は有望な地熱資源が多く存在する国立公園の開発規制の緩和を求めた。JWPAは改正建築基準法で風車タワーは超高層ビルと同等の耐震設計と構造計算を求められるようになり、設置費用の高騰につながっていると指摘した。

石連、バイオ燃料の導入目標に懸念

2010年6月3日の有識者委員会ではほかに東京製鉄、INAX、石油連盟、日本ガス協会が意見表明。石連はバイオ燃料の導入目標に懸念を表明した。

GGCとは

GGCとは、「Global Geothermal-power Club」の略で、地球規模での地熱発電を考える非営利のクラブです。代表は、竹内秀樹(Hideki Takeuchi)。

地熱開発が対立鮮明 国立・国定公園内の扱い

域外から傾斜×効率的な垂直

(2012年3月7日 電気新聞)

国立公園内での地熱発電開発
経済産業省と環境省で食い違い

国立・国定公園内での地熱発電開発に向け、再生可能エネルギーの普及拡大にまい進する経済産業省と、環境保全の重要性を訴える環境省の間で、開発の進め方に対する食い違いが表面化している。自然保護団体や温泉関係者と発電事業者間でも対立の構図は続いており、環境省が2012年3月中にまとめる国立・国定公園内での地熱開発に関する新たな通知の内容に、注目が集まっている。

第2種、第3種特別地域の掘削
総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)

地熱開発促進のためには、国立・国定公園内の「第2種、第3種特別地域における垂直掘削を要件とすることが不可欠」――。2012年2月22日の総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)基本問題委員会(委員長=三村明夫・新日本製鉄会長)の会合で、事務局の経産省が配布した資料にはこう記され、環境省サイドに衝撃を与えた。

垂直掘削が必要な理由

経産省は垂直掘削が必要とする理由に「傾斜掘削だと掘削距離が長くなることからのコスト増」「他の断層に遭遇する確率が高くなるといったリスクの上昇」を挙げる。また「傾斜角度の問題で、開発できない地域もある」(経産省関係者)という。

普通地域からの傾斜掘削は容認

環境省は2011年6月、国立・国定公園内での地熱開発の在り方を議論する検討会を立ち上げ、計5回の会合を重ねて2012年2月14日に報告書をほぼまとめ上げた。その中で、第2種、第3種特別地域について、普通地域などからの傾斜掘削に関してまでは、容認する姿勢を示していた。

東京大学社会科学研究所

基本問題委の会合では、出席した委員から、環境省に対する厳しい意見が出された。地熱開発の重要性を訴える松村敏弘委員・東京大学社会科学研究所教授は「(環境省は)斜め掘りだけを認めるというが、こんなものだけで何の役に立つのか。(環境省は規制緩和の在り方について)発想を根本的に変えないといけない」と指摘した。

報告書

垂直掘削の必要性を訴える経産省の姿勢に対し、環境省幹部は「その通りだとはとても言えない。第2種、第3種地域で垂直掘削を一律で認めることはあり得ない」と反論。検討会の報告書では「傾斜掘削のみ(認める)とは書いていない。今後、省内で検討し、責任を持って新たな通知についての結論を出す」(環境省幹部)としている。

環境省は自然の声を代弁
規制当局としての譲れない一線

ただ、環境省幹部は「環境省は自然の声を代弁しているという自負がある。自然環境は一度壊すと、回復に長時間かかり、取り返しがつかないことにもなりかねない」と、規制当局としての譲れない一線があることを強調する。

自然保護団体
温泉関係者からの意見聴取会

新たな通知の作成に向け、環境省は2012年2月24日、自然保護団体や温泉関係者からの意見聴取会を都内で開催した。出席者からは国立・国定公園内での地熱開発に反対する意見が続出。このうち、日本自然保護協会の担当者は「第2種、第3種地域での垂直掘りは乱暴な議論。生物多様性を保護する観点から、国立・国定公園での地熱開発は不可能」と指摘。温泉関係者からも「温泉地近くの地熱開発には断固反対」「地熱が温泉に与える影響がないとは言い切れない」と批判一色となった。

地熱発電事業者

一方、地熱発電事業者・企業からは、国立・国定公園内での地熱開発について、大幅な規制緩和への期待が高まっている。

東日本大震災からの復興

東北6県での地熱の開発可能量
八幡平北部や栗駒北部、磐梯

地熱発電事業者で構成する日本地熱開発企業協議会は2011年9月、東日本大震災からの復興の観点から、東北6県での地熱の開発可能量を調査。その結果、八幡平北部や栗駒北部、磐梯など6地域17地区で、計約74万キロワットの開発が可能なことが分かった。

第2種、第3種地域のポテンシャルの高さ

算定に当たり、国立・国定公園の特別保護地域と第1種特別地域は除外し、標高などの地形的な制約も考慮。この結果、74万キロワットのうち、8割近い57万キロワットが第2種、第3種地域内で確認されたことから、あらためて第2種、第3種地域のポテンシャルの高さが明らかになった。

傾斜掘削のみだと「開発可能量は半分にも満たない」

この57万キロワットは垂直掘削を可能とした前提の数字で、傾斜掘削のみだと「開発可能量は半分にも満たない」(日本地熱開発企業協議会)という。その理由は、傾斜掘削だと井戸元からの水平距離が最大で1キロメートルに限られるため。日本地熱開発企業協議会は「自然環境に最大限の配慮をしながら、垂直掘削でより質の高い地熱資源を利用していきたい」としている。

福島第一原発事故

東京電力福島第一原子力発電所事故によって、国民の原子力に対する不信感がぬぐえない一方で、再エネ普及拡大への機運が高まっている。不安定性が指摘される再エネの中で、地熱はベース電源として活用できる貴重なエネルギー源。だが、国内の地熱資源の多くは国立・国定公園内に存在している。

経産省関係者は、経産省と環境省の立場の相違について「結局は自然かエネルギーのどちらを取るか。ハイレベルの話し合いで決着をつけるしかないのでは」と話している。